薄衣の、するりと滑る艶めかしい音に関羽は耳を塞ぎたくなった。加えてむっと沸き起こる、若い肌の香り。関羽はわざとらしく咳払いをした。汗の香に混じる僅かな性臭が敏感な鼻に上り脳髄から甘く痺れさせてくるようだった。

「見て…みて、かんうぅ…ぼくが一人でエロいことしてるの、みてよう……」
 地上に打ち上げられた魚のように、劉備が絹の上に仰向いて身をよじっていた。手の中には関羽から奪い取った小さな黒い絹。宝のように握りしめ、もう一方の手では陰部を衣の上からやわやわと揉んでいる。下穿き越しに細い指先を這わせ浅ましくも自らを慰める王。悦びが全身を走る度にひくひくと爪先を痙攣させ恍惚の表情を浮かべる。
 股の辺りに薄く染みが広がり始めているのに気づき関羽は居たたまれない気持ちで目を背けた。それでも溜息のような切なげな吐息は両の耳から容赦なく流れ込んでくるのだ。
 関羽はできることならここから早々に立ち去りたかった。しかし主の「ぼくがイくまでずっと見てなきゃダメ」という度を外れて馬鹿馬鹿しい命令にも従わなくてはならない。最初に少しの慈悲心を出して命を聞き入れてしまったのがいけなかった。今や関羽は寝台脇に棒立ちになったまま、主君である青年の痴態に足を磔にされてしまっていた。目を背けながらもそれは一時のことであり、またすぐその嬌声に誘われてちらりちらりと視線を主の下腹部へと注ぐのだ。
「あ、あ…ふ、はぁ……かんう、かんう……」
 横目で見た劉備の顔はだらしなく、醜く、欲にまみれてとても見れたものではなかった。それでも関羽はじいとその鋭い眼差しで若い体を余す所なく見回す。
 一体、どこの世に部下に自慰を見せつけて善がる君主がいたものだろうか。やはりこいつは少し馬鹿なのだろうな。何かの理由で頭の大事な部分がブッ壊れてそのまま本人も気付かぬままだらだらと生きてきたのだろう。よくこれで三国の一角を為す国家の君主にまで上り詰めたもんだ。何かよくない策でも弄したのだろうか。例えば下半身を使った交渉とかを。昔、自分を仲間に引き入れた時にしたように。
 まあ、なんにせよ、こいつはまともではない。こんなこと全て、正気の沙汰ではないのだ。
 関羽はそう嘯きながら主が下穿きに手をかけずり下ろそうとしている様子を鼻息荒く眺めていた。他人の自慰を目を血走らせながら見物している彼自身もまた淫欲に耽る劉備と同程度に正気を失っているのだということにはまるで気付きもしないようだった。
「兄者…まったく、そんなはしたない格好をして……まるで淫売か何かのようですよ」
「あ、もっと言ってぇ…恥ずかしいこと、もっと、いっぱい言ってよお……」
 ずるりと下穿きを引きずり下ろし飛び出した物をせわしなく掴んだ。色味の薄い未熟な生殖器を指の腹で挟み込みまずは優しく撫でさする。先端から滴る淫水を指で掬い、塗り付けるように全体に延ばしてはふんふんと鼻を鳴らす。視界の中心で揺れる淡い紅色の茎。関羽は興奮した様子で、は、と息を漏らす。
「そんな粗末な物では女人の一人も悦ばせられないでしょうな……ああ、だから男色に走って夜毎男を銜えることを選んだのか。……本当に救いようがねぇ変態だな」
 あああ、と感極まった声を上げ劉備は茎を強く握り込んだ。そのまま上下に擦り上げ僅かに腰を浮かす。ぱらりと肌着の前が解け、開き気味になった足の間の物が余すところなく晒される。
「ん、うっ、はあぁ…あぁ、い、いい…ぁ…」
 潤んだ目でかぶりを振り振り自身を弄び続ける。その姿は王でも兄でも、ましてや英雄でもありえなかった。一国の君主はただの好色な青年に成り下がっていた。
「なんだその格好は、恥ずかしいなんてもんじゃないぞ。それとも何か? お前は恥ずかしい格好をするのが好きなのか? 人前で股をおっぴろげて見せるのが好きなのか? 」
 荒い息に紛れて罵倒してやれば劉備は一層身を捩らせ歓喜に喉を震わせる。
「そ、そうですッ…! ぼく、恥ずかしいとこ、見られると…こ、興奮しちゃうんです…! あ、どうしよう、ああ、かんう、かんう……たすけてぇ…! 」
 か細く鳴くと投げ出された片手に握られていた物を顔近くまで引き寄せる。黒い布地。体液を吸って更に濃く、黒くなった、関羽愛用の海水パンツ。鼻に押し当て思い切り息を吸い込んだ。むっと香る体臭、汗の匂い、そしてそこに仄かに混じる青臭い香。僅かながら存在感のありすぎる、精液のむせかえるような臭気。先端に付着していた物が履き直した時内側に染みたのだろう。慣れ親しんだ香りを愛おしさと共に胸一杯に吸い込む。充満する濃い臭いに頭がくらくらとする感じさえ心地よく劉備はとろけた意識の中でひたすら下を扱き続ける。
「…っふ、は、かんうの匂い…雄くさい…えっちなにおい…へへへ……」
 惚けた顔で舌をちろちろと延ばし、ついに布の一端を口に含んでしまった。より臭気の濃い、股間に当たる部分を舌の上で転がし唾液をまぶす。歯で噛みしめる。くちゃくちゃと咀嚼し十分に味わってからじゅ、と吸い付いた。生臭い物が喉を伝って胃に落ちた。
「んく、はあぁ…かんうのぱんつ、おいしいよお…やらしい味、いっぱい、すごいぃ……! 」
 涎で頬を汚くしながら目を見開き悦びにのたうつ王。関羽は呆然と、しかし確実に興奮を覚えながらそれを眺めていた。自分の物を使って自慰に耽る姿に興奮するなというのが無理な話だった。
 臍の下辺りの布が押し上げられ僅かに隆起している。一度萎えたはずなのに。こんな茶番を見せられたぐらいで。関羽は驚愕しながらも寝間着の上からさりげなく握り込みゆるゆると刺激し始める。
「ちくしょう…なんでこんな、野郎相手に……」
「…う、うぅ、く……」
 布を銜えたまま先端をくるくるとこね回す。その動きも物足りなくなると掌に付いた粘液を茎に塗り込むようにまた激しく上下に擦った。堪えきれず布の隙間から甘い声が漏れる。関羽はしかとその声を聞き下を弄びながら劉備の媚態を凝視する。戦慄く唇からぽろりと絹が落ち劉備は切羽詰まった声をひたすらに垂れ流す。粘液と空気が混ざり合う音。ぐちゅぐちゅと鼓膜を震わせながら際限無く続く快楽の証。
「う、あぁ…あ、い、イく…イきそ、やばい……! かんう、かんう、あぁ……」
 足に引っかかっていた下穿きをもどかしいように抜き取りぐっと足を広げて見せた。陰部がよく見えるよう膝を立て、追い立てるように中心を弄り続ける。肉付きのよい腿の内側がぴくりぴくりと震え限界を訴えている。それに合わせ爪先も跳ねる。顔は左右に振り乱し、固められていた黒髪が解けぱらりぱらりと絹を打つ。全身にじっとりと汗がにじんでいた。関羽は唾を飲み込んだ。色づいた茎と慎ましやかな嚢の下、小さな穴が足の合間からちろちろと覗いていた。荒い息に合わせ収縮と弛緩を繰り返す、淡く色の乗った裏の門。関羽は自身の物を握りしめながら見え隠れする恥部に目を凝らす。激しく身を捩る劉備。肌着は腰紐だけで止められており今や下半身から胸元までが大きくはだけている。露わな肌は赤く、熟した果実のようで、関羽は意図せず舌嘗めずりをする。
「…あぁ、あ、あ、で、る…でちゃう……! …っあ、ムリ、でちゃうぅ!」
「は、とっとと出しちまえ。しっかり、見ててやるからな」
「か、かんう、かんうぅ…! あ、あぁあぁぁ……」
 切なげな調子で長々と鳴くと上向いた肉茎からぴゅるりと白いものが飛び出した。一筋、弧を描いてから腹から胸にかけて着地する。更に絞り出すように強く擦れば二度三度と精が飛び、汗みずくの肌をびしゃびしゃと汚す。つうと体の横を伝い清潔だった絹に染みができた。
 劉備は吐精の快に抗するのも無意味とばかりに口をだらしなく開け、涎を垂らし、大きく喘いだ。下腹部を激しく痙攣させながらも名残惜しいかのように陰茎を扱く。残滓が先端からとろりと零れ落ちせわしく動く指先にまとわりついた。その精を塗り付けるようにゆるゆると指を滑らせる。肩で息をしながら天を見据えゆっくりと指を離し投げ出した。大の字になり夢見心地の顔で快楽の後味を噛みしめる。
「あ、はぁ、は…イッちゃった…関羽に見られながら、一人でイッちゃった……」
 こくりと唾を飲み込んでから至極嬉しそうな顔を傍らに立つ関羽に向けた。
 愛しの義弟は今どんな顔をしているだろう。面白がってくれてたら嬉しいんだけどなあ。でももしかしたらどん引いてるかもなあ。どっちなのかなあ。
 確かめるまでもなかった。歪む視界の先、今寝台の縁に立っていたと思った大きな影が息を吐く間もなく体の上に覆い被さっていた。顔の横に肘を突き一方の手で涎の張り付いた頬をなぞる。太く逞しい指先の、優しく繊細な動き。間近に迫る切れ長の双眸。口元には僅かな笑み。するりと顎まで指を滑らせ親指の腹で濡れた下唇を弄んだ。
 急な出来事についていくことができない劉備は唇の上を滑る指の暖かさをぼんやりと受け入れていた。ぐいと親指が歯を押し口内に進入しようと試みた。劉備は特に深く考えることなく口を開きぱくりと指を銜えてしまった。無意識に機嫌を窺うような上目遣い。関羽は喉の奥で小さく笑った。

「おいこら、犬かお前は」
 劉備は目を丸くした。
「そうやっていつも人に媚びを売って、他の奴らにも同じことをしてるんじゃないのか? ……例えばあの軍師やなんかに」
 即座に眉を歪ませて劉備は首を横に力一杯振った。
「本当にそう言えるか? どうなんだ? 」
 関羽の声音にはまだ迷いの色があった。その裏には自分は君主にいいように操られているだけなのではないかという疑いがあった。この男が自らの夢以外の何かに執着することは考えられないことのように思えた。ならば部下に媚びを売るこの行為もまた、夢への執着の為せる業なのだろうか。大願を成すには戦に勝たねばならない。戦に勝つには精強な武将が必要不可欠である。疑う余地もない道理だ。そう、所詮自分は天下という一等商品を賭けた戦という遊戯の手駒にすぎなかった。もう幾度思い悩み、苦しんだかもわからない。全て投げ出してできるだけ遠くへ逃げ出してしまいたい。しかし、しかしそれでも。
 眉間に皺を寄せ苦しげに唸る義弟の姿に劉備は一層顔を歪めた。今にも泣き出しそうな瞳を強く閉じがっしりとした男の腕を両手で捕まえた。関羽は指先に濡れた感触を受けてやや仰け反った。舌先が指の腹をちろちろとくすぐっていた。皮膚越しにでも確かに感じる熱い感触。眉を寄せながらちゅうと強く吸うと口を離し、飢えたように人差し指へと舌を延ばす。
 指先から感じる快感に低く唸ると関羽は性急な動きで口に指をねじ込んだ。人差し指と中指、太く長いものを深く突き入れ中を探る。うぐ、と苦しげに呻くのは無視し、舌を押しつぶすように擦る。応えてたどたどしく動き始めた舌先。明らかに媚びを含んだ動き。形ばかりの奉仕。その動きがどうしても別の何かを思い起こさせて、堪らなくなる。
 ずるりと指を引き抜くとまとわりついた唾液が糸を引いて零れ落ちた。苦しげに瞳を閉じたまま、濡れた唇をだらしなく開き息を荒げる劉備。微かに、震える声で愛の言葉を囁く。見え透いた媚びを含んだ言葉。形ばかりの寵愛。
 君が好きだ。君がいないとダメなんだ。ずっと一緒にいて。もうどこにもいかないで。ぼくを、見捨てないで。
 白い歯の向こうでへらへらと動く赤い舌。薄紅の唇を一舐めする赤。赤い、赤い、なにもかもが。なにもかもが糞同然の屁理屈だった。手駒だからなんだ、それがどうした。武将が君主の野望貫徹のために存在するのは当たり前すぎるほどに当たり前のことではないか。今更逃げ出すことなど不可能。ましてやこの素直すぎる君主の言葉の前では。明らかな媚び諂いとわかっていながらも抗うことのできない、この無力感。同時に味わう、心地よい束縛感。投げ出された両の腕を掴み布団に押しつける。もうどうにでもなれ。どうにでもなっちまえ。畜生。
 捕らえた獲物に食らいつく肉食獣の体で唾液の滴る柔肉を貪った。顎を捕まえ舌をねじ込めば劉備は呻きながらそれに応えた。舌を無茶苦茶に絡み合わせ同時に下半身を擦り合わせる。腰に絡み付いてくる足。二度と放すまいと強く縋りつく。髪に指を差し入れ頭を固定し幾度も角度を変えて口付ければ、返して細腕が首に回った。強い連帯の感。もう一歩も退くことはできなかった。鳥黐に足を取られるどころか全身どっぷりと浸かってしまった鳥の気分だった。
 合わせた唇が笑みの形に歪んだような気がして関羽はぎくりとする。開いた唇の隙間から好き、好きだよ、と繰り返し言う。関羽はやはりぎくぎくとする。
「お前は本当に心の底からそんなことを思ってるのか? 」
 囁いた問いかけに答えなどないのだ。




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