「いやだ、もうこんなこと沢山だ……」

腿をなぞる感触に身を震わせながら掠れた声で呟いた。敏感な薄い皮膚を長いこと嬲られ続け中心は熱を持ち始めていた。

「一国の君主たる者、時には我慢も必要ですよ」

わざと半勃ちの物に触れるのは避けその周囲をくるくると足で撫で回す。
前に垂れ下がった上半身の布地を握りしめ下腹部に集まる熱に打ち震えている。切なげに眉を寄せ頬を染めながらはあはあと小さく息を吐く。
その姿をにやりと嘲笑った孔明は徒に彷徨わせていた足をそっと中心へと延ばす。薄い布地を押し上げ始めていた先端を僅かに掠める。それだけで劉備は大きく身を震わせ、快感を受け流すように俯き口をきつく結んだ。意地悪くまた周回し始める。布がぴんと張ったその下に隠された肉付きのよい腿を足先で撫で感触を楽しむ。

「劉備殿」
「う、うっ…な、に? 」
少し高い位置から悠々と見下ろして言う。
「この前のお散歩は楽しかったですか? 」
「え? なん、で…」
「お散歩はどうだったかって聞いてるんです」
また小さく先端に触れる。あっ、と明らかに情欲をはらんだ声を上げもじもじと太股を擦り合わせる。そのもどかしく与えられる快楽に孔明の質問意図が重なり体の奥深い場所が疼き始める。ずん、と下腹部が重くなり前が張りつめる。
「べ、別に…どうってこともないし…何も…何も……あうぅ! 」
「嘘を吐くな」
冷めきった声が聞こえたと同時に力一杯股間を踏みつけられた。さらに休むことなくぐいぐいと押され声にならない悲鳴が唇から漏れ出す。
孔明は、は、は、と短く笑いながら痛みに身を捩る劉備を見下ろしている。
「気持ちよかったんでしょう? 見ず知らずの男に滅茶苦茶に掘られて」
「ち、ちが…う、そんな……」
「言わなくてもわかります。劉備殿は頭が悪い上に弱っちくて情けないけどこれだけは得意ですもんね。どんな風に気持ちよかったんですか? 」
「気持ち、いいわけない、だろ…ぼくは、男で、一番偉くて……」
いよいよ虚ろになり始めた両眼を覗き込んで笑う。足は執拗に陰部を煽り続けたままで。
「何言ってんですか。はは。どうせ汚いモン何本も銜え込んでアヘアヘ言ってたんでしょ。ねぇ、荒くれ共のアレは凄かったでしょう? 太すぎて気絶したりしないか心配だったんですよ。精子はどれくらい飲んだんですか? 美味しかったですか? 」
劉備はあの屈辱的な仕打ちの全てを仕組んだのが目の前にいるこの軍師であるとようやく悟った。しかしそれに気付いたところで今の彼にはどうすることもできない。ただ口を噤み従順なふりをし続けなくてはならない。少なくとも軍師の気が済むまでの間は。
「ほら、返事は」
爪で引っかくように先端を抉られ掠れた悲鳴が上がる。布が割れ目に食い込まんばかりに敏感な部分を押し続ける。
劉備は腿を痙攣させぽろりと一筋涙を零す。
「おい、しかった、です……」
「そうですか、よかったですね。それでその美味しい精液をお腹一杯飲んで、それから後ろでも飲まされてどうでしたか? よかったですか? 」
お互いどちらとも言えぬ荒い息づかいが密閉された部屋に充満する。生々しい臭いが鼻をつく。
にちゃり、と足の先に湿った感触を覚えて孔明は更に息を荒くする。
滲み出た体液で黒服の局部が濡れている。黒い布地のそこだけが濃く変色している。完全に立ち上がり薄い布を押し上げている浅ましい様に劉備は顔を背ける。腿の上で握りしめた拳が震えひくりひくりと下腹部が跳ねる。
「劉備殿、どうだったんですか? 」
「う、うぅ…あっ、気持ちよかった、です、でっかいの沢山突っ込まれてっ、あ…いっぱいセーエキ出されて、死にそうなくらい、ぁ…気持ちよかった……! 」
軍師は腹の底から笑いに笑った。澱みきった瞳で主を見下ろし考え得る限りのありとあらゆる罵倒を投げつけた。
劉備は小さく喘ぎながら朦朧とした意識の端でそれを聞き流す。
言葉とは裏腹に優しく丁寧に愛撫してくる足に股間が更に堅くなる。黒い染みが徐々に大きくなっていく。
「さてと、劉備殿がどうしようもないスケベだということはよくわかったので、ご褒美にもっといいことをしてあげましょう」

引きつけを起こしたようにしゃくりあげ続ける劉備は彼の紡ぎだした命令に一層絶望した。
自分で服をずり下げ股間を晒せ、という一段と悪趣味な命令だった。
どうにもならない恥ずかしさに我を忘れて暴れ出したい気分になったが、やはりそこにも打算的な考えが働いた。
夢を叶える労苦を思えばこれくらいの辱めが何ほどの物か。そうだ、こんなことに屈しちゃいけないんだ。こいつはまだまだ利用価値がある。
劉備はこんな時にまで野望を追い求めることに躍起になっている自分が嫌になった。しかしもうそこにしかこの反吐の出る行為を正当化する術は見つからなかった。少なくとも彼には、であるが。
劉備は嗚咽を精一杯堪えながら尻を浮かし、ぴったりと身に張り付いた布を丸めていく。思い切って膝下までずり下げれば欲望を湛え反り返ったものが勢いよく飛び出した。
孔明はにんまりと満足げに笑いその剥き出しの幹全体に足裏を添えた。そのまま上下に擦り解放を促していく。
「うっ…うぐ、あ、あ、ぅ……」
「…っは、その声、すごく可愛いですよ」
熱気をはらんだ空間に互いの欲情しきった声と粘着質な音だけが響く。その淫猥な空気の中で孔明は一人苛立っていた。
何故堕ちてこない。何故まだ屈しない。そろそろもう全てを私の手に委ねてくれてもいいのに。
どれほど痛めつけてやっても、こいつはあからさまに拒絶したり嫌がったりということをしない。かといって全く堕落しきって従順な奴隷となるようなこともない。
男は実のところ主を自分の言うことだけに従う人形に仕立て上げたかったのだがそれがどうしてもうまくいかなかった。
軍師は気づいていなかったが、この君主の願望への愚かなまでの執着心とその達成には手段を選ばない冷徹さを考えればそれも無理もないことだった。
何故そんなに苦しむのか。全てを私にくれれば楽になれるのに。なんの心配もなくなるのに。ああ、早くこの掌まで堕ちてきてください。でもそうさせるためにはどうすればいい?
ぐりぐりと意地悪く亀頭付近を攻めつつ、それならば、と思い立つ。
「ねぇ、劉備殿」
「っん…?」
「劉備殿は私が好きなんでしょう? 」
目を細め掠れるような声で問うてくる部下に主は愕然としてしまう。
親指の腹でしつこく裏筋をなぞり上げる動きは止まらず、呆気に取られながら体をびくつかせる。
「だって好きじゃなきゃこんなことしようなんて思いませんもんね」
実際、孔明は心の底から劉備が自分を好いているものと信じ込んでいた。自分の言うことにいつも唯唯諾諾と従うのはきっと彼が自分に心底惚れているからに違いないと、そう思っていた。
だからこそ彼の言葉にはある意味で真実味があった。
「男同士でするのは嫌ですか? 気持ち悪いですか? でも心配いりません。こうして好き合っている者同士ですることは汚いことでも悪いことでもないんですよ」
ゆったりとゆりかごを揺らすように語りかける。
その心地よさに劉備は硬直し始めた眼球を見開いて彼の用意したもう一つの心理的逃げ道に飛び込もうとしていた。
ぼくは悪くない、汚くない。
「ぼくは……孔明が、好き……? 」
「そうです。そうなんですよ」
「ぼくは、君が……好き? でも、ぼくは、やっぱり」
頭の正気な部分が拒絶する。しかしこみ上げてくる快楽が理性を焦がし間違った判断を下そうとする。楽な方に逃げようとする。
ああそうだ、ぼくは夢のために自分の体を売り渡すような卑しい人間じゃないんだ。これは、全て彼を愛しているからこそする行為。たぶん、ぼくはこの滅茶苦茶で理不尽で、そしてどうしようもなく綺麗な男を愛しているんだろう。たぶん、おそらくは。

「あっ、くぅ…好きだ、あ、好き、好き、好き好き好き……」
理性は、切れた。
完全に蕩けきった顔を見下ろし孔明は幸福さに長い長い吐息を漏らした。
足裏に感じる生々しい熱さをもっと感じようと上下に擦る動きが止まらない。いよいよ上擦ってきた劉備の声に欲が体の中心に集まり始める。
「は…は、こんなにビンビンに勃てて。男が嫌いならいくら踏まれたってこうはならないですよね」
「あ、あぁ…あ、こうめ、い、すきだ…ぁ、すき、すき……」
熱に潤んだ目でしっかりと見つめ合う。
「わたしも、好きですよ。本当に、心の底から」
小さな言の葉が零れ落ち互いの身を焦がし合う。触れ合った場所のぬかるみ加減が疑似的性交のように思われて、興奮した二人は若い性欲をどうにか発散させようと相手の体の一部を貪り喰らう。
先端を、優しく包み込むように足指で覆い力を込めたり緩めたりを繰り返す。指の股がねっちょりと濡れる。それに応えて腰を押しつけるように前後に揺する。突き上げる動きで彼の足を使う。もどかしさに泣けてくる。熱い。接触面が異様に熱い。自慰をするかの如く擦りつけることに没頭する。熱い、熱い、溶けそうに。狭窄していく視界の先に、まっすぐ彼が映る。なんだ、こんな時まで、こいつは、笑っているのか、綺麗だ。綺麗だ。ああ。

「……っはぁ、いっぱい出ましたね」

白い足先にねっとりと液体が纏わりついている。満足げに眺めながらゆっくりと足を離し、糸が引く様を楽しむ。足裏から足の甲まで汚した粘性の高い液が重力に従って敷物の上に落ちていく。自分たちが今した行為は紛れもなく性行為であると思い知らされた。
孔明は熱い吐息を漏らしながら天にも昇る気持ちだったが、劉備は苦しげな息を吐きながら地獄に叩き落とされたような屈辱感を堪え忍んでいた。
しかし耐えることにはもう馴れっこだ。徐々に鮮明になる意識。視界もはっきりとしてくる。
未だ荒く息をつきながら震える唇のその端から一筋唾液が滴り落ちるのをちらと盗み見た。虚空を見据え顔を恍惚にだらしなく弛緩させている。
まるで射精でもしたような顔だな、と主は思った。いや、まさか。濡れた瞳が吸い込まれるようにこちらに向いてついびくりとしてしまう。
「劉備殿……」
掠れた声が鼓膜を震わせる。
「気持ちよかったですよね? 私は最高に気持ちよかったです」
「う、うん」
完全に正気を取り戻した意識の上で劉備は孔明のしつこさにうんざりしていた。面倒臭い奴だ。もういい加減にしてくれ。
結局の所、彼は目の前の男を好きでもなんでもなかったのだ。
ただの軍師。少々使い勝手の悪い戦の道具。
「だったら、好き、ですよね? 愛してるんですよね? 」
「うん、好きだよ。もちろん」
彼の気に入りの柔らかな微笑みを零しながら白々しい台詞を吐く。
熱に浮かされた頭が出した「彼を愛している」という結論にはもうどんな道筋を辿ろうが行き着くことはなかった。
主の張り付けたような笑みに孔明は息を詰まらせた。喜びに打ち震えながら口端の涎を拭うふりをしてそっと目元に袖を伸ばした。
劉備はその様子をぼんやりと眺めながらただ哀れだと思っていた。
「好きです、私も」
「うん……」
「好きなら、ねぇ、こんなことしても許してくれますよね? 」
上等な衣の裾がたおやかに揺れ精に塗れた足先が延びる。
「う、わ……」
唇に足指を押しつけられた。
ぬるり、と粘ついたものが薄い皮膚の上に乗るのを感じて劉備は反射的に口を堅く閉じる。気持ち悪い。
拒絶の意志を示した劉備に孔明は悲しげに眉を寄せる。それでもこの身勝手な軍師は諦めなかった。
嫌だ、と言うなら良い、と言うまで痛めつけてやればいいだけのこと。なに、きっとこの人も男同士と言う気恥ずかしさのためになかなか素直になれないだけだ。
そのまま唇をなぞり、弾力のある頬まで粘糸を走らせる。ぐいぐいと押してやればすぐに汚らしいもので肌一面が覆われた。
「劉備殿、ほら、お願いします……」
「う、うぐ…うえっ」
再び唇を割開く。今度は容赦なく力任せに。
「貴方のお口で綺麗にしてください」
仕方がない。もう少しだけ付き合ってやるか。しかし、またなんでこいつはこう悪趣味なんだ。
上目遣いに睨みつつその細い足に手を添えた。
ちろ、と舌を小さく出しまず親指の腹に這わせる。柔い肌を覆う汚物を丁寧に舐めとってやる。
「……っあ、は」
びくりと体を震わせ小さく喘ぎを漏らす。その艶めかしい様を見て君主はほくそ笑む。
指の股の薄い皮膚を舌先で擽ってやればまた一層か細い声を零す。
目をうろうろと泳がせ頬をすっかり上気させている。
「ねぇ、どうしたの? 」
足裏を支えながら舌を甲まで移動させる。
白い肌に浮いた血管に沿ってゆっくりと愛撫する。
「気持ちよくなっちゃったの? 」
あ、と声を上げ孔明は恥ずかしげに身を捩った。さっと逸らした瞳は濡れている。また指先に舌が降りてくる。親指を音を立ててしゃぶられもう居たたまれなくなる。真剣な面もちで施されるその愛撫がどうしても口淫のように思われて性器が痛くなる。机に手を突き胸を反らせなんとかやり過ごそうとしてみる。はあはあという息と共にまた透明なものが口から零れ落ちる。
劉備は今自分が優位に立っていることを認識し少々驚いた。
この様子を見ると本当にこいつはぼくのことが好きなんだろうなあ。ならばそれを利用しない手はない。
外で従順で情けないふりをしつつ、内ではどこまでも打算的で利己的な君主だった。
望むものを全てくれてやって、もう二度と離れられないようにしてやろうか。そうだ、そうしよう。

「う、あっ…何、を…」
広がった長衣の裾に手を突っ込み腿から局部までを性急に撫で上げる。足を僅かに開かせその中心を掌で覆ってみる。
じっとりと湿っていた。下穿きの上からでもはっきりとわかる。股間が粗相をしたように濡れている。
やはり出していたのか。心内で笑いながらその熱を持ったものを握り込む。もう半ば勃ち上がりかけている。
煽るように布の上から扱けば水っぽい音が二人の間にうるさく響く。
「や、やめて、くださ……」
「孔明」
呆れるような、宥め賺すような声色に恐る恐る顔を向ける。口元に手の甲を当てたままその澱みきった黒い眼を見つめ返す。
口元は笑っているが、眉はぴくりとも動かさない。
主が時折見せる、一番嫌な笑い方だった。

「ねぇ、君なんで勃起してるの? 」
他愛もない質問をするようにごく軽い調子で尋ねる。が、その内容は可愛らしいものでもなんでもなく、明らかな悪意が透けて見えていた。
孔明は羞恥に顔を染めながら堅く目を閉じる。
「ねぇ、なんで? 男の踏んで興奮しちゃったの? それともぼくだからよかったの? 」
股間をまさぐりながら小さく震える唇を至近距離で観察する。丸い頬にじっとりと汗が浮いているのに気づきここにも舌を這わせてみる。案の定、びくびくと体を痙攣させひきつった喘ぎを絶え間無く零し始める。
「言ってくれないとわからないよ……。ぼくは君ほど頭がいいわけじゃないから」
名残惜しげに手を離し、代わりに膝下にまとわりついていた黒い布に手をかける。そのまま力任せに引きちぎり両の足を自由にする。
無惨にぼろ布となったその黒服は遠くに放り投げた。
改めて部下を見据えゆっくりと震える肩に手を置く。そのまま机の向こう側に押し倒す。背を打ちつけないように丁寧に、優しく。
首尾よく全裸で跨る格好になり再び陰部を弄り始める。
「気持ちいい? 」
「あっ、あ、は…いいで、す……! それ、い、い…」
あまり経験がないからなのか、ちょっとの愛撫で身も世もなく喘ぎ、涎を垂らす。
その姿に主も確かに興奮していた。
擦り上げる動きが速くなる。
「そう…よかった。じゃあ、次はどうしたい? 早く突っ込みたい? 」
腰を小刻みに揺すり応える。
「は、はい、突っ込みたい、です。早く、はやく……」
劉備は満たされる征服感にほう、と息をついた。
本当に単純だなあ。これじゃ、まるで発情期の犬だ。でも扱いやすいことには変わりない。これからもぼくの忠実な犬としてせいぜい役立ってもらうよ。
一方で部下はこれから主と一つになれるという喜びに感極まっていた。
彼も自分を求めていた、好きだと言ってくれた。余りある幸福感と快楽が身をゆったりと満たしていた。
二人の欲求が綺麗に合致した瞬間だった。
たとえそのあわいに顕然たる壁がそびえ立っていたとしても。

「ね、まだ言いたいことある? 」
着物の前を勝手に寛げながらほとんど面倒臭そうに劉備が言う。
「ほら、始まっちゃったら禄に口も利けなくなると思うから」
剥き出しになった自分の陰茎を這い回る指先を見て孔明は夢を見ているような声色で言った。

「はい、わたしは、あなたのいぬになりたい、です」